古川 ふさみ Interview|「お花って素晴らしいんだな」と思ってもらいたい

世界で活躍するフラワーアーティスト・古川ふさみ。生花を用いた独自の表現を追求するアーティストとしての顔と、次世代の作り手を育てる指導者としての顔を持つ。その根底にあるのは、家族から受け継いだものづくりへの姿勢と、諦めずに自分自身を高め続ける強い意志。花を通して人に何かを感じてもらうことを目指す、古川ふさみの創作と指導に対する哲学、そしてその素顔に迫る。

「一生やっていけるものは何だろう」と考えた時に、たどり着いたのがお花だった

ーーー まず、古川先生のこれまでの活動について少しお伺いできればと思います。現在はお花を中心に活動されていますが、もともとはどのようなことをされていたのでしょうか。

古川 中学生ぐらいから、フランス刺繍や、パッチワーク。学校に行きながらいろんな細かいことをやっていたんですね。毎週日曜日にフランス刺繍をやったり、刺し子をやったり、パッチワークをやったりして、3年、4年ぐらいはそういう細かいことを続けていました。お花に至るまでにも、編み物だとか、いろんな細かい手芸をやっていましたね。もちろんスポーツもやっていて、どちらかというとスポーツが主だったんですけれど、そういうことも並行してやっていました。

ーーー さまざまな手芸を経験されていたんですね。そこから、現在のお花の活動につながっていったきっかけは何だったのでしょうか。

古川 結局、0からデザインしてのものづくり制作は面白いんです。パッチワークも面白いし、編み物も、楽しくなかったんですよ。綺麗にはできるんですけど、楽しくない。自分の中だけで終わってしまうアート作品。芸術としては、自分で勝手にやっている自己満足の世界なんじゃないかなと思ったんです。ただ、実際にやっていないのに「私はこれは嫌だ」と言うのも、やっている方に失礼じゃないですか。ですから、どういうものなのか、自分には何が向いているのかを知るために、いろんなことを実際にやってみたんです。

ーーー 実際にさまざまなものを経験しながら、ご自身に合う表現を探していかれたわけですね。

古川 そうです。だけれども、やっぱり「外に発信していかないといけない」という思いがあったんです。子どもを産んで、20代の頃から少しずつ考えるようになって、いろんなことができても、それを自分の中だけで終わらせていたらダメだなと。その頃も未来につながる芸術がありました。でも、結局、生き残っていく芸術とかアートというのは、人間が生きていく上で必要なものと関わっているんじゃないかと思ったんです。人間には衣食住がありますよね。色々な日本独特の技術もあります。悩んだ末、お花はどうなんだろうと考えたんです。お花って、生まれた時から人生の最後まで関わるものですよね。亡くなる時に、なぜお花を添えるのか。そういうこともいろいろ考えました。今は流行っているけれど、心に残らないアートもありますよね。そういうものではなくて、「一生やっていけるものは何だろう」と考えた時に、たどり着いたのがお花だったんです。

相手が求めているものを作らなかったら、プロじゃない

ーーー そうしてお花を表現の手段として選ばれた先生ですが、現在は生花を中心にさまざまな作品を制作されています。作品を制作される際に、大切にされていることを教えてください。

古川 会社側から依頼されたり、個人的にブーケを頼まれたりするときには、相手が何を言っているのか、どんなものを求めているのかということを、自分の頭の中での最終形を描くようにしています。そのために、相手の話をすごく細かく聞きます。掘り下げて聞くんです。例えば、長いものがいいのか、持った時にどちらが重く感じるような形がいいのか、どちら向きに流すのか、まっすぐ持つのか。会社からの依頼であれば、どういう色を使うのか、どういうテーマなのか、そのテーマに沿ったお花をどういう形で作ればいいのか、というところまで、きちんと聞いていきます。相手が何を求めているのかを理解して、それが自分の考えとずれないようにすることを大切にしています。自己満足ではなくて、相手が求めているものを作らなかったら、プロじゃないですよね。

ーーー 「自分が作りたいもの」よりも、まず相手が何を求めているのかを理解することが重要なんですね。

古川 そうですね。人の言ったことをきちんと聞くということは、すごく大切だと思っています。自分だったらこういうものを作る、ではなくて、相手が求めているものを、そのまま形にしてあげられる。それが綺麗なものであっても、そうでなくても、その人に合ったものを作れる。私は、そういうデザイナーになりたいんです。

ーーー 素材についてはいかがでしょうか。海外への出展や展示会などでは、アーティフィシャルフラワーなどを使われることもあるのでしょうか。

古川 海外に出したり、展示会があったりすると、どうしても長期間になるので、そういう場合はアーティフィシャルフラワーなどを使います。でも、基本的には私は、生花の形をアートで表現しているというだけなんです。ですから、素材としては基本的に生花です。レッスンでも生花を使っています。

ーーー 生花とアーティフィシャルフラワーでは、同じ花でも扱い方がかなり違いそうですね。

古川 生花が一番難しいですね。生花は一つの形状がすべて違います。アーティフィシャルフラワーならば、ワイヤーを使ったり、いろんな小道具を使ったりして形を作ることができます。でも、生花は自然のものですから、生き物なんです。命ですから、私は一番丁寧に扱います。

ーーー 先生は国内だけでなく、海外でも作品を発表されています。作品を通して、見る方にどのようなことを感じてほしいと考えていらっしゃいますか。

古川 嬉しいことというのは、海外に持っていった作品でも、日本国内で発表した作品でも、見てくださる方がいて、その方が何かを感じ取ってくださることですね。みんな同じ人間ですから、お花は何も喋らないし、芸術も勝手に喋って何かを言うわけではないですよね。でも、何かを感じ取ってもらって、そこで足を止めてもらえたら嬉しいんです。物言わぬ芸術から何かがその人の心の中に入っていくものがあったらいいなと思って、私は制作しています。それは一般の方でも、芸術家の方でも同じです。作品をいろんな角度から見ていただいて、そこで何かを感じていただければ、それぞれ違うことでもいいんです。海外の方にも、私はたくさん教えていますけれど、やっぱりイマジネーションというか、そういうものが伝わればいいんですよね。自分が何を伝えたいのか、そして作品のタイトルと、そのお花がどれだけリンクしているのかということが、相手に少しでも伝われば、幸せです。

ーーー 先生にとって、作品と向き合う中で、刺激や学びを得るきっかけにはどのようなものがありますか。

古川 ジャンルは関係ないです。やっぱり心に響く作品ってあるんですよね。私は書道、書が好きなんですけど、書が上手い人のところへ行って、「これはどこから筆を置いたんだろう」とか、そういうことを見たりするんです。そうすると、素晴らしい作品と思うんですよね。そういうものからも、何か学ぶものがあるんです。そういう作品を見て回ることが、次の日からの心の中の見えない糧というか、そういうものにもなります。前向きになれるんです。例えば、年配の男性の方が書いた作品を見て、後からその年齢を知ったりすると、「どこにあんなエネルギーがあるんだろう」と思うことがあります。その人の作品の裏側まで見えるような気がするんです。そういう作品に出会えると、こちらのモチベーションも上がります。「もっと頑張らないといけないな」と思いますね。

ーーー そうした刺激を受けながら、先生ご自身も制作を続けていらっしゃるんですね。先生にとって、制作を続けていく原動力は何でしょうか。

古川 人と比較するのではなくて、自分との戦いなんですよ。いつも自分の中との戦いです。人と比較するということは、まずないですね。素晴らしい作品は、心に残ります。「素晴らしいなあ」と思っちゃうんです。ですから、素晴らしい作品は心を打つ。お花をやっていても、他の人のお花と比較するなんて、私は絶対にしないですし、そういう目で見たこともないですね。

その人にしかない個性というのは、その人にしか作れない

ーーー ここまで先生ご自身の制作について伺ってきましたが、先生はアーティストとして活動される一方で、お教室で多くの生徒さんを指導されています。ご自身の制作経験は、現在のお教室での指導にもつながっているのでしょうか。

古川 自分が習ってきた中でも、分からないまま先に進んでしまうことってありますよね。先の先まで読んで分かる人もいるんですけど、半分以上の人は、分からないまま次に進んでしまう。そうすると、いつまで経っても先生と生徒の関係が変わらないんですよね。でも、本当は生徒さんがどんどん上達して、先生と同じくらいのレベルまで上がってきてもいいと思うんです。なので私は、あまり「生徒と弟子」「先生と弟子」という関係に特化したくない。その人がもっと伸びていきたいと思ったら、いろんなところを紹介していきたいし、若い人たちにもどんどん成長していってほしいんです。小さい子でも、そういう可能性はありますから。別に「私の作風に沿ってください」ということではなくて、それぞれが自分の作品を作って、自分の名前で発信していってほしい。例えばSNSで、自分が作ったものを発信していく。そうやって、その人自身の個性やブランドを作っていってほしいんです。

ーーー 先生の作品を再現することではなく、それぞれが自分の表現を見つけていくことを大切にされているんですね。

古川 そうですね。その人にしかない個性というのは、その人にしか作れないものなんですよ。ですから、そういうものを作っていってもらいたい。先生が作ったものを見て、その通りにモノマネする。そういう教室もあるのかもしれませんけど、私はそれを何十年も続けるというのは、どうなのかなと思うんです。もちろんマニュアルは必要です。基礎を身につけることは絶対に大事。でも、マニュアルができて当たり前で、そこから先に「ここを少し崩したら、もっと素敵になるんじゃないか」とか、「自分だったらどうするんだろう」と考えてほしい。そういうところまで含めて、自分の表現を確立してもらいたいんです。

ーーー 先生ご自身がアーティストとして積み重ねてきた経験が、そのまま指導にも生かされているんですね。

古川 そうだと思います。引き出しがないと、やっぱりマニュアルで終わってしまう。視野が狭い。例えば、自分が赤が好きだったら、赤をとことん突き詰めて、「どうやって使ったら、赤が一番きれいに見えるんだろう」と考えてみる。そこまで掘り下げていくと、考えることはいくらでもあります。そういうふうに、自分の好きなものをストイックに突き詰めていってほしいと、生徒さんには伝えています。ちなみに私は赤が大嫌いなんですけど(笑)。でも、もし「赤でお願いします」と言われたら、「はい」と言って、赤で作れなきゃいけない。

ーーー 好き嫌いに関係なく、求められたものに応えられることが、プロとして大切だということですね。

古川 そうです。好きとか嫌いとかは、人間なので絶対にあります。でも、自分の好きな色しかできないんだったら、プロとしては話にならない。「この色で制作してください」と言われたら、その色でできなきゃダメなんです。ですから、そこまでできるようになるためにも、まずは好きなものからでいいんですよ。最初から嫌いなものを好きになれと言っても、大人はなかなか無理ですから。例えば、「これが好き、これは嫌い」「お掃除は好きだけど、これは嫌い」と思っている人に、嫌いなものを急に好きになれと言っても難しい。でも、好きなものなら、とことん極めることができる。そこまで極められたら、「こっちも少しはできるんじゃないか」と、自信がついてくるんです。私は、そういうふうに生徒さんを指導していきたいと思っています。そういうところは、ほかの教室とはだいぶ違うと思います。

ーーー 実際に生徒さんを指導される上で、技術を教えること以外に大切にされていることはありますか。

古川 教えるということの難しさは、13年やってきて本当につくづく感じています。ですから、生徒さんの視点で考えるようにしています。9歳から73歳まで、お花の方ではもう少し上で80代の方もいらっしゃいますけど、それぞれその人の目線に合った話し方をするようにしています。そうすると、皆さん安心してレッスンに来てくださるんですよね。それは本当にありがたいことだと思っています。

ーーー レッスンは、かなり長い時間をかけて行われるそうですね。実際にはどのような一日になるのでしょうか。

古川 9時前にはここに着いています。9時45分から生徒さんがいらっしゃいますので、その前に準備をします。午前のレッスンが終わって、今度は1時から午後のレッスンなんですけど、お花の場合は短い時間で区切って終わりというものではなくて、納得ができるまでレッスンいたします。ですから、生徒さんと一緒にお昼ご飯を食べに行きます。1時間くらいみんなで全然違う話をしながらご飯を食べて、そこからまた戻ってきて、ここで続きをやるんです。

ーーー 一日を通して、作品だけではなく、お花そのものについても細かく学んでいくわけですね。

古川 そうです。私は生徒さんに、お花の名前をきちんと覚えてほしいんです。「これは何でしたっけ?」って聞かれた時に、「これはスマイラックスです」「レモングラスです」と、正確に言えるようにしてほしい。ライン取りをする花もありますし、バラぐらいの大きさで、花びらがたくさんあって丸っこいラナンキュラスのような花は、マスフラワーという種類に入る。カスミソウみたいにパラパラしているものはフィラーフラワーという分類に入る。そういうことも真剣に勉強しましたから、きちんと覚えてほしいんです。「これ何ですか?」と聞かれて、「忘れちゃいました」ではダメなんです。「これはレモングラスです」「これはスチールグラスです」「この枝はこれです」と、きちんと覚えてください、メモしてください、と言っています。

ーーー かなり細かく教えながらも、先生ご自身が完成形を作って見せることはしないんですね。

古川 そうですね。そういう説明だけでも30分、40分くらいします。それから今回のデザインがどういうものなのか、どういうものを作るのかという説明をして、それだけでも1時間半くらいかかります。でも、私自身はそこで実際に作って見せることはしません。私が作ってしまったら、同じものをレプリカとして作ることになります。口だけで説明して、その人に想像して制作してもらうのです。ですから、先生が作ったものを見て、それと同じようにやるだけだったら、マニュアルのレプリカになってしまうので。先生と同じようにやるだけで終わってしまいますから。

「そんなことで諦めていいのか」って、父親の声が聞こえるような気がするんです。

ーーー 先生が、人に寄り添うことや、相手の話をよく聞くことを大切にされる背景には、これまでのご経験も関係しているのでしょうか。

古川 やっぱり父親の影響は大きいですね。父は国家一級技能士で、仕立てもやっていて、洋裁の仕事をしていました。私自身が洋裁をやったのは一番最後なんですけど、小さい頃から父が仕事をしている姿をずっと見ていたんです。お客さんが来た時にどうやって対応しているのかなとか、外国人のお客さんが来ても「Next Wednesday」とか言っていて、「あんなんで大丈夫でしょうか」なんて子ども心に思っていたんですけど、それでもお客さんは「Thank you.」と言って帰っていくんですよね。そういうのを見ていて、やっぱり笑顔って大切なんだなと思いました。また、叔父の存在も大きいです。3年くらい前に亡くなったんですけど、ジュエリーデザイナーで、黄綬褒章も取った方なんです。すごく真面目な人で、「お前はそういう道に行ったんだから、掘り下げて、掘り下げて、諦めちゃダメだ。絶対に諦めるな」と、何度も叱咤激励されました。そうやって叔父が真面目に人生を頑張って生きてきた姿を見てきたことも、今の私につながっていると思います。

ーーー お父様の存在も、先生の今の活動に大きく影響しているんですね。

古川 そうですね。父親はすごく厳しい人だったんですけど、私の中には笑顔の姿が一番残っています。「お前、そんなことで諦めるのか」と、すごく厳しく言われてきました。ですから、今でも何かやっていて「ああ、これはダメだ」と思うと、「そんなことで諦めていいのか」って、父親の声が聞こえるような気がするんです。そうすると、「そうだよな。まだもうちょっと体力もあるし、もう一度考えてみよう」と思える。父は厳しくて、「そこで終わりだったら、お前はそこで終わりだな」と言うような人でした。ですから、悩んだ時には今でも「こういう時、父親ならどう言うかな」と必ず思います。それなのに、あれだけ苦労しても笑っていたというのは、強さと優しさの裏返しなのかもしれませんね。ですから私も、何かあった時に父親に怒られたことを思い出すんです。

ーーー そうしたご家族から受け取ったものが、今の先生の生き方にもつながっているんですね。

古川 はい。父が生きていたら、きっと喜んでくれるだろうなって。

それがどういうふうに咲いて、どういうふうに枯れていくのかを見ているだけでも、少し豊かな気持ちになれる

ーーー では最後に、今後の活動について伺いたいと思います。これから制作や展覧会などを通して、どのようなことを伝えていきたいと考えていらっしゃいますか。

古川 人生は、駆け足で過ぎていきます。ですから、今日が人生で一番若いんですよね。自分自身の健康状態もそうですけど、今が一番いい時で、これより悪くなることはあっても、良くなることはあまりないと思うんです。体力的にも衰えてきますから、それを精神力でカバーしていかなきゃいけない。そうしながら、世界の方々にも、日本の方々にも、少しでも作品を見ていただいて、何かを感じていただいて、笑顔になっていただけるように、お花を通して「お花って素晴らしいんだな」と思ってもらいたいんです。特別なものとしてではなくて、もっとお花を身近に感じていただきたい。例えば、カーネーションを一本、自分の机の上に飾るだけでもいいんです。それがどういうふうに咲いて、枯れていくのかを見ているだけでも、少し豊かな気持ちになれると思うんですよ。そういう小さな豊かさを持っていただきたいなと思っています。なので私自身も、今日より明日は、今より少し違う自分でいようと、いつも思っています。

ーーー 今日はありがとうございました。

古川 ありがとうございました。

アーティストとして、相手の要望に応える高いプロ意識を持つ一方、生徒一人ひとりをアーティストとして尊重し、その個性を伸ばしていく指導者としての顔も持つ。その根底には、強さと優しさを兼ね備えた父親から受け継いだ姿勢がある。鑑賞者の心に何かを届け、笑顔につなげるために、古川ふさみの創作の旅路はこれからも続いていく。

PROFILE

古川 ふさみ (ふるかわ ふさみ)
1960年 横浜市出身

ヴァン・ヴェール主宰。日仏芸術協会。NFDフラワーデザイナー。ブリザード芸術協会講師、審査員。JAC技能検定1級。ニューヨークマンハッタンアートアワード賞。日本の美術、全国選抜審査員特別賞23回より、30回まで、7年連続受賞。RBAイギリス王立美術家協会名誉会員。その他、受賞歴多数。日本ドイツ友好芸術賞。ニナリッチコラボ。フランス国際芸術賞etc

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